不動産売却
アパートを売却したいと考えていても、入居者が住んでいる状態だと「本当に売れるのだろうか」「入居者に何を伝えるべきか」など、不安に感じることが多いかもしれません。
実は、入居者がいるままでもアパートの売却は可能で、適切な手続きや配慮をすればスムーズに進めることができます。
この記事では、オーナーチェンジの仕組みや売却時の注意点、入居者との関係を良好に保ちながら進めるためのポイントをわかりやすくご紹介します。
初めての売却でも安心して進められるよう、基礎知識から実務的な対策まで丁寧に解説しています。
入居者が賃貸借契約を継続したまま物件を売却する方法は「オーナーチェンジ取引」と呼ばれ、売買契約時に所有権だけが買主へ移転し賃貸人の地位も同時に譲渡されます。
借地借家法により賃借人の居住権は強く保護されているため、契約期間や賃料、敷金など既存契約の条件は基本的に変更できず、そのまま引き継がれる点が特徴です。
買主は購入時点から家賃収入を得られるので、利回りを重視する不動産投資家にとって需要が高く、空室リスクを避けたい投資家への訴求力が上がります。
売主側は空室期間の家賃滞納や修繕費用を負担し続ける必要がなくなる一方、入居中であることが査定価格に反映されやすく、居室内の内覧が難しいため値引き交渉の材料にされやすい点に注意が必要です。
適切な相場設定と詳細な賃貸資料を用意することで、買主に安心感を与えつつ高値成約へつなげやすくなります。
一般的には物件の管理状態が良好で、家賃の滞納がなく、賃貸借契約書や領収書などの書類が整っているケースであれば、入居中でも問題なく売却が成立します。
特に近年は一棟アパートや区分マンションの収益物件を一括で購入する投資家が増えており、長期入居者がいる事例は安定運用の証拠として高評価を受ける場合もあります。
また築年数が浅い、リフォームを定期的に実施している、周辺エリアの需要が高いといったプラス要素が重なると、空室物件より高い価格で成約した実績も少なくありません。
逆に老朽化が進み修繕履歴が曖昧、賃料が相場より高すぎる、定期借家契約で残存期間が短いといった条件では、買主が更新リスクを警戒し価格が下がる傾向があります。
管理会社や仲介担当者と協力し、家賃収入や修繕計画などの情報を買主へ正確に提示することで、成立可能なケースを広げることができます。
空室で売却する場合は買主が自由に内覧でき、リノベーションや自主管理を検討しやすいため、投資家以外の実需層も含めた広いターゲットにアプローチできます。
一方で家賃収入がゼロの期間が長く続くと売主の固定資産税やローン返済の負担が増え、販売価格を下げてでも早期成約を選択するケースが少なくありません。
入居中売却は安定した家賃収入を示せる反面、内覧制限や契約条件維持の縛りが価格面のディスカウント要因になります。
買主が投資利回りを重視するか、自由度を重視するかによって評価軸が異なるため、物件の強みを見極めた上で販売戦略を立てることが重要です。
どちらの形で売却するにしても、査定時に提示される「想定利回り」「修繕履歴」「周辺相場」を比較し、より高値を狙えるタイミングを選ぶことが成功の鍵となります。
入居者が居住を継続したまま売却を進める最大の利点は、契約完了日まで家賃収入を得られるためキャッシュフローが途切れず、ローン返済や固定資産税の支払いに充当できる点です。
また査定時に「想定利回り」が実績ベースで説明できるため、利回りを重視する投資家へ訴求しやすく、販売活動の早期スタートが可能になります。
収益が計算しやすい物件は金融機関の融資審査もスムーズになりやすく、買主がローン特約を付けやすいことで成約率も向上します。
さらに長期入居者がいる場合は退去リフォーム費用や募集広告費が不要となり、売主・買主双方のコスト削減につながる点もメリットです。
家賃滞納がなく管理状態が良好であるという客観的データを示すことで、買主に安心感を与え値下げ交渉を最小限に抑えられます。
入居者が居住中のまま売却する場合、売却後に家賃滞納が発生したり、修繕要望が増えたりした際に買主が負担を感じる可能性があり、そのリスクを価格に織り込まれることがあります。
また買主が居室を実際に確認できない場合は物件の状態を推測で判断せざるを得ず、室内の瑕疵が後で発覚すると契約不適合責任を問われるおそれがあります。
加えて所有権移転後に敷金・保証金の返還義務も買主へ引き継がれるため、入居者の過去のトラブル履歴や滞納債務を正確に開示しないと、訴訟リスクが高まります。
さらに買主が将来的に退去交渉や建替えを計画している場合、正当事由が認められず立ち退き料が高額化するリスクも考慮され、利回りが低下する懸念があります。
事前に管理会社と連携し、家賃入金履歴・修繕記録・契約更新状況などの資料を整え、リスクファクターを明示的に共有することで買主の不安を軽減できます。
売却が成立すると、新オーナーは「賃貸人」として入居者との賃貸借契約を承継するため、敷金・保証金の預かりや家賃請求、修繕対応など全ての管理業務を担います。
売主が管理会社と締結していた管理委託契約も、条件付きでそのまま移行できるケースが多く、買主が自主管理を希望しない限り管理体制は継続可能です。
引き継ぎ時には、未収家賃・預り金・入居者情報・修繕履歴・設備保証書などを一覧表にして共有し、決済日に精算書を交わすと後日のトラブルを防ぎやすくなります。
同時に固定資産税や火災保険の清算基準日を売買契約で明確に定め、権利義務の境界を可視化することが双方のリスクヘッジになります。
入居者への通知文書を共同で作成し、管理会社名義で発送するなど連携体制を整えると、信頼関係を維持したままスムーズに運営を引き継げます。
民法や借地借家法にはオーナーチェンジ時に賃借人へ事前告知する義務規定はなく、売主が入居者へ明示的に承諾を得る必要はありません。
ただし所有権移転後に家賃の振込先が変わることや、管理会社が変わる場合は確実に通知しないと家賃滞納や連絡不通が発生しやすくなります。
実務では売買契約の決済完了後、旧オーナー・新オーナー・管理会社連名で「オーナー変更のご案内」を書面または電子メールで送付し、賃料振込口座の変更日や問い合わせ先を明記します。
通知を怠った結果、入居者が旧口座へ家賃を振り込み続け、過払い精算や二重入金の調整に追われる事例もあるため、タイムリーな連絡が不可欠です。
信頼関係を維持する観点からも、法的義務がなくても早めに情報提供する方が後工程のトラブルを抑えられます。
売却告知の際は「入居条件や賃料は現行のまま継続する」ことを最初に伝え、生活環境に変化がないと安心してもらうことが大切です。
次に家賃振込先や緊急連絡先が変わる場合は、変更日と連絡窓口を具体的に示し、問い合わせがあった際に迅速に回答できる体制を整えておきます。
書面だけでなく電話や対面でフォローを行うと、文字だけでは伝わりにくい疑問を解消でき、クレームに発展する可能性が大幅に下がります。
説明資料には新オーナーの管理方針や修繕計画の概要を盛り込み、「改善に取り組む姿勢」を示すことで不安を期待へ変える効果があります。
管理会社が継続する場合は担当者名と連絡先を明示し、顔写真やコメントを添えると親近感が生まれ円滑な関係構築に役立ちます。
売却を伏せたまま所有権移転が完了すると、入居者が知らない相手から家賃振込口座変更の通知を受け取り、不審に思って支払いを保留するケースがあります。
最悪の場合「家賃を騙し取られるかもしれない」と警戒して支払いを停止し、滞納が発生することで新オーナーとの関係が初動から悪化する恐れがあります。
また設備故障などの緊急連絡が旧オーナーに届き続けると対応が遅れ、修繕遅延による損害賠償請求を受けるリスクも否定できません。
売主にとっては売却後のトラブルでも、契約不適合責任期間中であれば対応を迫られる場合があり、精神的負担や追加コストが生じます。
こうした影響を防ぐためにも、オーナーチェンジの事実と連絡ルールは適切なタイミングで入居者へ開示することが安全策といえます。
仲介に強い不動産会社へ依頼すると、収益物件専門の投資家ネットワークや金融機関と連携して買主候補を効率的に探してくれます。
専任媒介契約を締結すれば販売活動状況のレポートが定期的に届き、問い合わせ件数や内覧希望などの状況をスマートフォンで確認できるため忙しい業務の合間でも進捗を把握しやすくなります。
査定時には家賃収入・利回り・修繕履歴を基にした価格設定を提案してくれるため、相場より高すぎる売り出しで長期化するリスクを避けられます。
一方で仲介手数料や広告費が発生するため、売却益の中から費用を差し引いた後の手取り金額を事前にシミュレーションし、ローン残債や税金の支払い計画を立てることが不可欠です。
オーナーチェンジ実績の多い会社を選び、面談で具体的な販売戦略を確認することで成約までの流れを明確にできます。
入居者本人に購入意思がある場合、仲介手数料を節約できる点や引き続き住み慣れた住環境を提供できる点で双方にメリットがあります。
ただし金融機関のローン審査に通らなかったときの代替策が必要で、売却スケジュールが不透明になるリスクを見込むべきです。
また売買価格が相場より低く提示されがちで、価格交渉が長期化すると関係性が悪化し、家賃滞納につながる可能性もあるため慎重に進める必要があります。
契約書は専門家に作成を依頼し、賃貸借契約終了と所有権移転のタイミング、敷金精算の方法を明文化することで後日のトラブル回避に役立ちます。
売買が不成立だった場合も想定し、並行して仲介会社へ販売活動を依頼する二段構えの戦略が安心です。
入居者に退去をお願いして空室状態で売却したい場合、借地借家法の「正当事由」が必要で、単に売却を理由にした明渡請求はほぼ認められません。
正当事由を補完するためには立ち退き料の支払いが一般的で、目安は家賃の6か月〜12か月分とされることが多く、交渉が難航すればさらに増額する場合もあります。
訴訟に発展すると弁護士費用や裁判費用がかかり、判決が出るまで数年を要する事例もあるため、コスト・期間・精神的負担を総合的に比較する必要があります。
また明渡交渉に失敗すると関係が悪化し、売却どころか家賃滞納に発展するリスクもあるため、退去を前提にした売却計画は慎重に検討しましょう。
退去交渉を行う場合は、専門の弁護士や管理会社と連携し、書面での通知・合意書作成・立ち退き料の支払い時期を明確にすることが成功の鍵となります。
所有権が移転しても賃貸借契約は存続し、賃借人は新オーナーへ対抗できるため、契約期間満了まで居住を続ける権利が守られます。
そのため買主が入居者との契約条件を変更したり、更新拒絶や家賃値上げを一方的に行うことはできません。
売主は賃貸借契約書の原本、更新合意書、連帯保証人の情報を正確に引き継ぎ、未収金や修繕義務の範囲を一覧化することで責任の所在を明確にします。
また抵当権付き物件の場合、金融機関の抵当権抹消手続きと所有権移転登記を同日に行う必要があり、司法書士の段取り確認が欠かせません。
これらの手順を整理しておくと、買主の不安を払拭しスムーズな決済につながります。
敷金や保証金は決済日に買主へ全額引き継がれるのが原則で、未返還分を含めた金額を「敷金承継明細書」に記載し、双方で確認します。
当月家賃は日割り精算が一般的で、決済日を基準に売主と買主で按分計算を行い、引渡し時の精算表に反映します。
家賃の振込サイクルが末締めの場合は、決済月の翌月に入金される家賃をどちらが受領するかを売買契約書で定義しておくと後の混乱を防げます。
未収家賃や滞納分がある場合は、債権譲渡とするか売主が回収を継続するかを協議し、合意内容を書面化しておくとトラブルを回避できます。
精算方法を曖昧にすると引渡し後に金銭トラブルへ発展しやすいため、司法書士や管理会社にフォーマットを依頼しておくと安心です。
入居中物件の査定では、表面利回りだけでなく修繕積立状況、築年数、周辺相場との賃料差、家賃改定履歴など多角的な指標が用いられます。
特に長期入居が続く部屋は安定収入の証となる一方、退去時の原状回復費用が高額になる懸念が査定にマイナス補正されることがあります。
反対に短期解約が頻発している場合はキャッシュフローの変動リスクが強調されるため、家賃設定や入居募集の運用方針を改善した上で売却に臨むと評価が高まりやすくなります。
査定書を受け取ったら、利回り計算の母数となる「年間賃料収入」に空室損や修繕費を控除した実質利回りを自分でも試算し、納得度を高めることが重要です。
複数社に査定を依頼し、評価のばらつきや根拠を比較することで、最適な売り出し価格の判断材料が得られます。
売却準備の第一歩は賃貸借契約書、更新合意書、入居者台帳、家賃入金履歴、修繕記録、建築確認通知書、登記事項証明書などを一括でファイリングすることです。
特に賃貸借契約書は原本が紛失しているケースも多いため、コピーしかない場合は入居者と合意の上で再作成するなど早めの対応が必要です。
測量図や管理規約、管理委託契約書も買主が金融機関へ提出を求められることがあるため、電子データ化しておくとスムーズです。
ローン返済中の場合は、金融機関から残債証明書を取得し、抵当権抹消の必要書類を司法書士へ依頼するタイムラインを確認します。
これらの準備を先行して行うことで、買主が現れた後の契約締結から決済までの期間を短縮でき、高値成約のチャンスを逃さずに済みます。
売却を意識した段階から入居者との対話を大切にし、定期巡回やメンテナンスの際に顔を合わせて信頼関係を強化しておくと、オーナーチェンジ時の説明がスムーズになります。
売却計画を告げるタイミングでは、生活環境が維持されること、家賃や契約期間が変わらないことを先に伝え、安心感を提供しましょう。
質問への回答は迅速かつ具体的に行い、連絡手段を電話・メール・LINEなど複数用意することで、入居者が不明点を即座に解消できる環境を整備します。
物件の資産価値向上を目的とした修繕や美観改善を実施すると、入居者はポジティブな変化として受け取り、売却後も良好な居住意欲を保ちやすくなります。
こうしたコミュニケーションを積み重ねることで、売却プロセスが円滑に進み、トラブルの発生リスクを大幅に低減できます。
入居者がいるアパートの売却は、適切な方法と準備があれば十分に可能です。
オーナーチェンジを活用すれば、家賃収入を維持しながら売却を進められる一方で、リスクや配慮すべき点も存在します。
入居者との信頼関係や情報の伝え方によって、その後のトラブルを防ぐことができ、買主にとっても安心材料となります。
売却を成功させるためには、事前の書類整理や管理体制の確認、そして売主としての誠意ある対応が重要です。